中日新聞ウェブ版の社説から https://www.chunichi.co.jp/article/674166?rct=editorial
国が、重い障害がある人の就労を支援する特別事業制度をスタートしてから二年半。これまで対象外だった就労、通勤時の介助サービスに対して、国と自治体が費用の大半を助成し、重度障害者の社会進出を後押しする狙いだが、利用が広がっていない。使う側に立った制度になっているとは言いがたいからだ。
制度は排せつや入浴、食事などの介助が常時必要で、国の重度訪問介護や視覚障害者ら向けの同行・行動援護の福祉サービスを受けている人が対象。従来、「経済活動」であることを理由に就労や通勤時の介助は、必要なら本人や企業が全額負担しなくてはならず、重度障害者が働ける可能性を阻む要因ともなっていた。
二〇二〇年十月に始まった新制度では就労や通勤時も、国や自治体が介助費を助成する。ただ仕組みは複雑だ。雇用施策は独立行政法人が、福祉施策は自治体が担当するため、パソコンの入力や書類の整理など「仕事」の介助と、食事や排せつ、体位調整など「仕事外」の介助は別々に申請する必要があり、書類も毎月のように提出しなくてはならない。
厚生労働省によると、今年一月時点の利用者は全国で百八人。制度を始めるには地元自治体の同意が不可欠だが、一月までに実施した自治体は全体の3%足らず、五十市区町村にとどまる。残る自治体は「需要が把握できない」「準備に時間を要する」などの理由で始められていないという。
国に先駆け、一九年度に独自に始めた、さいたま市でも利用者は七人。煩雑な手続きなどで雇用先に負担をかけたくないとして申請に二の足を踏む人もいて、伸び悩んでいるという。本年度、本格的な実施を予定する名古屋市の担当者は、利用者の就業形態によっても仕組みや申請方法が異なるなど準備に手間取ったと明かす。
希望するすべての人が持てる力を発揮できる社会が求められていることは論をまたない。十分な介助さえあれば、その才能やセンスを生かして、地域や社会に貢献できる人は全国各地にいよう。まずは、すべての自治体が早々に制度を整える必要がある。周知や需要の掘り起こしも行政の責務だ。その上で、利用者側の意見も踏まえつつ、手続きを簡素化するなど、より使い勝手がいいサービスへと改善してほしい。