日弁連が1月30日に声明を出しています。
2025年12月、障害年金の障害認定審査医員(以下「認定医」という。)による認定調書(判定記録)について、日本年金機構(以下「年金機構」という。)の職員が、支給・不支給を判定した医師の判定結果に問題があると判断した場合に、当該認定調書をひそかに廃棄し、別の認定医に判定のやり直しを依頼していた(以下「本件」という。)との報道がなされた。この報道を受け、厚生労働省(以下「厚労省」という。)は、年金機構の職員が認定調書を破棄した事実を認めて調査を行うこととし、2026年1月16日、調査結果を公表した。
厚労省の発表によると、2024年5月以降、2025年12月までの認定調書の作り直し件数は約7500件に及んだとのことである。調査結果の資料として公表された年金機構障害年金センター管理グループ名義の指示文書(2024年4月30日付け)によると、年金機構の恣意的判断により不要とした認定調書については3か月保管した上で廃棄する取扱いとされており、本件は一部職員の独断ではなく年金機構の組織的指示により行われていたものと考えられる。
また、厚労省からは、認定調書を作り直した約7500件のうち、認定が終了し年金機構で原議を確認できる2025年10月以降分の全ての認定調書(811件)を調査し、不適切な取扱いがなかったかを確認したところ、「認定医が変更され、判断結果が悪くなった事案は17件に過ぎず、その判定結果も妥当であった。そのほかは、単純な記載誤りなどの形式不備の訂正に過ぎず、問題はなかった」という趣旨の結果報告がなされている。
しかし、このような評価は疑義がある。上記811件のうち284件は、判定未了の作成途上の認定調書であるため、作り直しの合理性を判断できないが、判定結果が出ていた残りの527件のうち、認定調書の作り直しによって当初の判定結果が変更された件数は229件にも上る。すなわち、認定調書作り直しによって約43%は当初の判定結果が変更されているのである。認定調書の作り直しについて「形式不備の訂正に過ぎない」という厚労省の報告は明らかに不合理であり、主たる目的は年金機構が判定結果を変更させることにあったと考えるのが合理的である。
また、認定医を変更した理由について「対面審査が基本で、標準処理期間を守るため」という弁明も不可解である。「対面」とは障害者本人との対面ではなく、年金機構職員との対面を意味するが、認定調書作成時に職員が対面同席して審査している以上、形式不備はその場で当該認定医に指摘して訂正させれば足りることであり、特に当該医師にも秘匿して別の医師に再認定を委託するのは余計に時間がかかることでもあり不自然である。また、障害年金実務上、標準処理期間を超えて認定されることは珍しくなく、期間遵守のために認定調書の作り直しが必要だったという理由は実態とかけ離れている。
そもそも本件のような障害年金の恣意的な判定は、2025年4月にも、「令和6年度の障害年金不支給急増問題」として明らかになり、当連合会も同年7月10日付けで「障害認定基準を見直し、障害年金について公平な制度の構築を求める会長声明」を公表し、障害年金の様々な課題を検討する専門家検討会等を設置し、公平な制度を構築するよう求めた。しかしながら、厚労省は調査を行うにとどめ、年金機構職員へのヒアリング等の調査を実施して同年6月及び同年9月に調査結果を公表したが、そこでは今回明らかになった認定調書の作り直し及び破棄の事実には全く触れられていない。
また2025年6月の調査結果では、精神障害の非該当割合は、2023年度が6.4%であることに対して、2024年度は12.1%と約2倍の水準になっており、精神の障害に係る等級判定ガイドラインにおける障害等級の目安よりも下位に認定された割合は、2023年度に約45%であったものが2024年度に約75%と急増している。それにもかかわらず、年金機構の調査状況の発表では、2025年12月26日時点において、2024年度の不支給等事案の点検により支給された割合は約4%に過ぎず、国の対応は極めて不十分である。
一連の厚労省の障害年金に関する調査結果に鑑みると、厚労省自身が調査して結果を報告するという「自浄」作用には限界があると言わざるを得ない。
本件の年金機構による認定調書の廃棄及び判定のやり直しは、障害者の生存権を支える重要な権利である障害年金を受給する権利に関する判断が、年金機構により恣意的に歪められていたことを意味し、国の障害年金認定の公正性に対する社会の信頼が大きく損なわれた。
障害年金認定は、国民年金法施行規則、厚生年金法施行規則等により、裁定請求の際に、主治医等の診断書を提出することが原則とされており、認定医は当該診断書を基礎として意見を述べる運用となっている。年金機構が恣意的に当初の認定医の認定調書をひそかに廃棄して、別の認定医に書換えをさせていたことは、憲法第31条、行政手続法等に照らし、適正手続違反として認定に瑕疵があると言わざるを得ない。また、認定医の認定調書は、公文書等の管理に関する法律の「法人文書」又は「行政文書」として「公文書等」に該当する可能性があり、その場合には年金機構がこれをひそかに廃棄することは同法に違反するおそれがある。
当連合会は、2024年4月19日付けで「
障害年金制度の認定基準に係る早急な見直しを求める意見書」を公表しているところ、このように、障害年金の認定に係る不公正で恣意的な運用が次々と明るみに出る状況においては、国が障害年金の認定に関する様々な問題に対応することは喫緊の課題である。
障害年金改正法が可決された2025年5月30日衆議院、同年6月13日参議院においても、不支給問題等を念頭に、障害年金に関し「必要な措置を講ずるとともに恣意的な判定がなされないように透明性を確保するための検討を行い必要な措置を講ずること」との附帯決議がなされている。
当連合会は、国に対して、本件に関し、事実確認及び原因究明並びに再発防止のための、厚労省からの独立性が確保された第三者調査委員会の設置を求める。また、障害年金の受給権が不当に侵害されることのない公正で公平な制度を構築するために、障害認定基準等の障害年金に関する様々な課題について抜本的に検討する専門家検討会を設置することを改めて強く求める。
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